一貫性の原理に並んで、ビジネスの世界で活用されるのが、返報性の原理です。

一貫性の原理とは?

あらゆる心理学的法則の中で、この返報性の原理こそが、ビジネスというものを成り立たせている、最大の心理的要因なのではないかと思います。

返報性の原理とは、ごく簡単に言うと、

「人は受けた恩は返さないと気が済まない」

というものです。

それでは、この返報性の原理とはどのようなものなのでしょうか?

さっそく見ていきましょう。

返報性の原理で恩が5倍になって返ってくる!?

アメリカでこんな心理実験がありました。

実験協力者と被験者の2人が、
美術鑑賞の名目で、同じ部屋にいました。

第一の条件では、協力者は休憩時間に、部屋を出て行き、コーラを2本持って戻ってきました。

そして、親切にも、そのうちの1本を被験者にあげました。

第二の条件でも、同じような状況で実験をしました。

しかし、今度は実験協力者は、手ぶらで部屋に戻ってきました。

それ以外は同じ条件でした。

さてこの後、実験協力者は、被験者に対して、

「チケットを売っているんだけど、いちばん多く売ったら50ドルの褒美がもらえるんだ。一枚25セントなんだけど、何枚か協力してくれないかな」

と頼みました。

すると、コーラをおごられた人は、おごられなかった人の2倍も多くのチケットを買ってあげたのだそうです。

これは、明らかに、最初に受けた親切に対する、恩返しの気持ちによるものと考えることができます。

返報性の原理の驚くべき3つの性質とは?

さて、この実験ですが、
他に大事な点がいくつか判明しました。

一つ目は、親切をほどこした人のことが、好きか嫌いかはあまり関係ない、ということです。

実験協力者に好印象を持った人も、そうでない人も、同じくらいの結果だったそうです。

二つ目は、返す恩の大きさです。実験当時(1960年代)、コーラは1本10セントだったそうです。

一方、コーラをおごられた被験者は、平均で2枚(50セント相当)のチケットを買ってあげたのだそうです。

つまり、10セントの投資で、50セントの見返りを得た、ということになります。

恩が5倍になって返って来た、ということです。

三つ目は、この返報性の原理は、恩をほどこす側の一方的な意思で引き起こされている、ということです。

実験協力者は、頼まれたわけでもないのに、
勝手にコーラを2本買ってきて、
勝手に被験者におごっています。

つまり、恩というのは、着せようと思えば、
一方的な意思で着せることができてしまう、
ということです。

これらのことから導き出されることは、

相手がこちらのことをよく思っていなくても、こちらの一方的な意思で恩を着せ、しかも、その何倍もの見返りを期待することができる

ということです。

返報性の原理が、一貫性の原理と並んで、
いかに強力なものかがうかがえます。

人はなぜ返報性の原理にもとづいて行動するのか

それでは、なぜ「返報性の原理」という心理法則が、これほど強力なのでしょうか。

その大きな理由の1つとして、人間にはこの性質が備わっているからこそ、相互に助け合って生きていくことができる、ということがあげられます。

商売だとか、外交だとかも成り立つわけです。

つまり、「いずれは自分に返ってくる」と信じられるからこそ、こちらから先に与えたり、援助したり、といったことができる、ということです。

「情けは人のためならず」ということわざは、この返報性の原理の本質を言い当てています。

返報性の原理のない世の中は発展しない

もし人間に、この「返報性の原理」が備わっていなかったら、どうなるでしょうか。

恩を一切返さない、さらには、恩を仇で返すことさえ普通の世の中だったら、人間社会はどうなるでしょうか。

信頼によって成り立たない世の中は、人々が協力することによって発展していくことができません。

力を合わせて大きな仕事を成し遂げることが、できなくなるでしょう。

「人に恩を与えても返っては来ないし、自分が受けた恩も返す必要などない」

そう思いながら生きなければならないなら、人はみな、自分のためだけに行動するようになります。

人一人でできることなど、たかが知れています。

それぞれが、自分一人のためだけに頑張ったって、たいしたことはできません。

「孤立したひとり」が単に1000人いる世の中よりも、「1000人の仲間たち」から成る世の中の方が、同じ1000人でも、はるかに大きなことを成し遂げられるし、平和で生きやすい世の中になるでしょう。

そのため、人は返報性の原理、すなわち「恩義を感じる心」を持つようにできている、と考えられます。

返報性とは、つまり「罪悪感」

この「恩義」の心は、非常に強い圧力を持っています。

もし受けた恩を返さないままだとすると、その人は、自分自身と、他人からの、両方の視線に苦しむことになります。

人は、他人から「恩知らず」と後ろ指を差されることも、自己評価がそうであることにも、我慢がなりません。

だから、人から何らかの恩を受けたときには、それを返そうとする気持ちが、自然と湧き起こります。

言葉を変えると、人は恩を受けっぱなしでは、非常に居心地が悪いわけです。

だから、受けた恩は、さっさと返せるときに返してしまおう、と考えます。

その結果、機会さえあれば、
恩を何倍にしてでも返したがるわけです。

しかも、それで「損したなあ」と思うどころか、

「ああ、やっと肩の荷が下りた」

といった感覚になるわけです。

このように見ていくと、「恩を返したい」という気持ちの根底にあるのは、「罪悪感」であることが分かります。

この感覚は、理屈ではなくて、ほとんど本能のように私たちに刷り込まれています。

そのため、知らないと、気づかないうちに悪用され、勝手に恩を売られて、何倍にもして返すように仕向けられてしまう、ということにもなりかねません。

返報性の原理を悪用されないためには?

対策としては、人から何か恩を売られようとしたときには、警戒する、というのが有効です。

本能のままに、何となく恩を受けてしまったら、見事に術中にはまります。

本能をねじ伏せて、理性で警戒心を発揮するより、方法はないと思います。

たとえば、非常にちっぽけな例ですが、スーパーの試食。

私は、試食すると、買わなければいけない気持ちになり、別に欲しくもないのに、つい買ってしまうことが多かったです。

今にして思うと、まさにこの「返報性の原理」が働いていた、ということになりそうです。

対策は2つありました。

1つは、食べても買わない。

もう1つは、そもそも試食しない。

私が選んだのは、後者でした。

正確に言うと、「買うつもりのないものは試食しない」ということです。

もちろん、前者を選ぶこともできました。

どちらを選んでもいいでしょうが、いずれにせよ、

「本能や反射的な行動パターンを理性でコントロールする」

という意志の力が必要です。

そもそも、こういうことに気づかなければ、
対策のしようもないですよね。

そういった意味でも、心理学を学ぶことは大いに意義がある、と言えます。

次回は、返報性の原理の応用へ続きます。

>>ドア・イン・ザ・フェイス~返報性の原理の応用

ぜろっくの無料講座